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神戸地方裁判所 昭和51年(行ウ)21号 判決

原告(選定当事者) 山田市郎

〈ほか三名〉

被告 神戸市長 宮崎辰雄

被告 神戸市建築主事勝原正彦

被告ら両名訴訟代理人弁護士 奥村孝

同 安藤真一

同 石丸鉄太郎

右訴訟復代理人弁護士 鎌田哲夫

参加人 住友商事株式会社

右代表者代表取締役 稲葉静也

右訴訟代理人弁護士 熊谷尚之

同 高島照夫

同 中川泰夫

右訴訟復代理人弁護士 田中美春

主文

本件訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告神戸市長が昭和五〇年三月二四日参加人に対し、別紙物件目録記載の土地についてなした都市計画法二九条に基づく開発行為許可処分を取り消す。

2  被告神戸市建築主事が昭和五〇年三月三一日参加人に対し、右地上にある地下一階地上一四階、(塔屋二階)の共同住宅兼店舗についてなした建築基準法六条に基づく建築確認処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  参加人

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙選定者目録記載の選定者ら(但し、選定者番号43小西敏裕、同44小西信子、同66柴原邦平、同67柴原祐子を除く。)はそれぞれ別紙図面表示の場所に住居を有する住民である。

なお、右選定者番号43小西敏裕ら四名は本訴が提起された昭和五一年七月二六日当時別紙図面表示の場所に居住していたが、その後他に転居した。

2(一)  参加人は、昭和四九年八月一四日被告神戸市長(以下単に「被告市長」という。)に対し、都市計画法二九条に基づき、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について共同住宅兼店舗の建設を目的とする開発行為(以下「本件開発行為」という。)の許可申請をなし、被告市長は昭和五〇年三月二四日参加人に対して本件開発行為の許可処分(以下「本件開発許可処分」という。)をした。

(二) 参加人は昭和四九年一二月一六日被告神戸市建築主事(以下「被告主事」という。)に対し、建築基準法六条に基づき、本件土地上の共同住宅兼店舗を建築するため確認の申請をなし、被告主事は昭和五〇年三月三一日参加人に対して右の確認処分(以下「本件確認処分」という。)をした。

3  本件開発許可処分には次のような違法事由があるから、取り消さるべきである。

(一) 都市計画法施行規則二〇条によれば、予定建築物の敷地に接する道路の幅員は、住宅の敷地又は住宅以外の建築物の敷地で、その規模が一〇〇〇平方メートル未満のものにあっては六メートル、その他のものにあっては九メートルとする旨規定されているところ、本件土地上に建設される分譲住宅兼店舗(以下「白鶴ハイツ」という。)の敷地面積は、九〇四四・一七平方メートルであって、同条に定める一〇〇〇平方メートル未満ではないから、白鶴ハイツの用途が住宅であるか、或いは店舗であるかにかかわりなく、敷地に接する道路の幅員は九メートル以上でなければならない。そうすると、被告市長が敷地に接する道路の幅員は六メートルをもって足りるとなし本件開発許可処分をしたのは、同条の規定に反して違法である。

(二) 都市計画法施行令二五条四号によれば、開発区域内の主要な道路は、開発区域外の幅員九メートル(主として住宅の建築の用に供する目的で行う開発行為にあっては六・五メートル)以上の道路(開発区域の周辺の道路の状況によりやむを得ないと認められるときは、車両の通行に支障がない道路)に接続していることを基準とする旨規定されている。ところで白鶴ハイツは、住居部分に対して一二・三パーセントの割合の店舗部分を含み、その延面積は一五〇〇平方メートルを超える大規模なものであって、同条同号にいう主として住宅の建築の用に供するものといいがたい。また開発区域外の接続道路は、その幅員が九メートル以上でなければならないのに八・五メートルしかなく、しかも南部においては五・五メートルと狭くなっている。更に白鶴ハイツの周辺の道路は、神戸市内でも有数の交通危険区域であり、狭隘であって市バスが擦れ違えず、交通渋滞を生じているから、同条同号にいう車両の通行に支障がない道路にも当たらず、したがって本件開発許可処分には同条同号の規定に反する違法がある。

(三) 都市計画法三三条一項二号によれば、本件開発行為により設置さるべき公園は、環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上支障がないような規模及び構造で適当に配置されていることが必要である旨規定されているところ、本件土地の南西部に設置される公園は、超高層の建築物である白鶴ハイツの真下にあって風害が甚だしく、また前面道路より七メートル高い位置に所在しているうえ、車両の交錯する前面道路を横断したり、或いは架橋を上下しなければ入りえないことになっているから、同条同項同号にいう環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上支障がないような規模及び構造で適当に配置されているものとはいいがたく、したがって本件開発許可処分には同条同項同号の規定に反する違法がある。

(四) 本件土地は、その西方の前面道路を隔てて深田池公園の所在する風致地区に隣接している。白鶴ハイツの建設によって、右風致地区内の日照が午前中長時間にわたって遮ぎられるだけでなく、風害も生じているため、右公園内にある多数の桜、柳等の植物がやがて衰死し、右公園内の景観は著しく破壊されることが明らかである。したがって、本件開発許可処分には都市計画法一条ないし三条、三三条の規定に反する違法がある。

(五) 都市計画法三三条一項一三号によれば、開発許可の基準として、当該開発行為をしようとする土地若しくは当該開発行為に関する工事をしようとする土地の区域内の土地又はこれらの土地にある建築物その他の工作物につき、当該開発行為の施行又は当該開発行為に関する工事の実施の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることが必要である旨規定されている。ところで、本件開発行為により白鶴ハイツの付近住民の日照権や環境権等が侵害されるので、被告市長は、本件開発行為の許可処分をなすに際しては、付近住民の相当数の同意を得ていることが必要であるのに、これを得ていない。したがって、本件開発許可処分には同条同項同号の規定に反する違法がある。

4  本件確認処分には次のような違法事由があるから取り消さるべきである。

(一)(1) 本件土地及びその周辺の区域は、第一種住居専用地域(以下単に「第一種地域」という。)であるが、昭和二六年ころ幅員二七メートルの道路(神戸国際港都建設計画道路・一等大路第三類第一七号弓場線)(以下単に「弓場線」という。)を敷設する原案が決定され、昭和五〇年ころその敷設工事が施行されることになり、弓場線の竣工を前提条件として、第一種地域は第二種住居専用地域(以下単に「第二種地域」という。)に指定された。

ところが、所轄行政庁は最近弓場線を着工する予定はないと言明し、若し右言明どおり弓場線を着工敷設しないとすれば、低層住宅の第一種地域に第二種地域が突出してくる根拠を欠くことになり、したがって本件土地及びその周辺区域の第二種指定は取り消さるべきである。

若し仮に当初の原案どおり弓場線が敷設されるものとすれば、弓場線を除いた敷地の部分は、第二種地域の部分が減少して第一種地域のそれが多くなり、そのため本件土地及びその周辺の開発区域全体が第一種地域とみなされることになる。

以上のとおり、弓場線が敷設されるかどうかにかかわりなく、いずれの場合においても本件土地及びその周辺の区域に対する第二種地域の指定は違法なものとなるべきところ、白鶴ハイツの建築は第一種地域に適合しないものであるから、本件確認処分は違法となる。

(2) 仮に本件土地の一部が第二種地域と認められたとしても、本件土地は、同一人の所有に属する第一種地域の隣接地と密接不離の一体の利用関係があるにもかかわらず、第二種地域の部分が本件土地の過半を占めるように恣意的に第一種地域を分割し、第一種地域の第二種地域に対する比率を減少せしめたものであって、これは建築基準法九一条の盲点を悪用した脱法行為であり、したがって本件確認処分もまた違法となる。

(二) 建築基準法一条によれば、同法制定の目的として、この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする旨規定されているが、右規定は、建築主事が確認申請を審査するにあたっての最低基準を定めたものである。したがって、被告主事が、同法六条三項に基づき、白鶴ハイツの計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するかどうかを審査するに際しては、単に確認申請の書面のみで形式上の審査をするにとどまらず、同法一条の法意に基づき、更に高度の実質上の審査をなすべき義務を負っているものといわなければならない。白鶴ハイツの建築は、付近一帯の低層住宅地という良好な住宅環境を害することが明らかであるのに、被告主事が本件確認処分をしたのは、右の実質上の審査を怠ったものというべきである。そうすると、本件確認処分には、同法一条、六条三項の規定に反する違法がある。

(三) 建築基準法九一条によれば、建築物の敷地が、同法の規定による建築物の敷地、構造、建築設備又は用途に関する禁止又は制限を受ける区域、地域(防火地域及び準防火地域を除く。)、又は地区(高度地区を除く。)の内外にわたる場合においては、その建築物又はその敷地の全部について敷地の過半の属する区域、地域又は地区内の建築物に関する同法の規定又は同法に基づく命令の規定を適用する旨定められているところ、白鶴ハイツの敷地は高度地区に属しているから、同法九一条の規定は適用されないものといわなければならない。しかるに、被告主事は、同法九一条により、白鶴ハイツの敷地は、第二種地域が第一種地域より多いため、その敷地の全部について敷地の過半の属する第二種地域に関する法令が適用されるものとなし、高さ約五〇メートルに及ぶ超高層の白鶴ハイツについて本件確認処分をしたのであるから、本件確認処分には、同法九一条を適用すべきでないのに、これを適用した違法がある。

5  よって、原告らは、被告市長に対しては本件開発許可処分の、同主事に対しては本件確認処分の各取消を求める。

二  被告市長の答弁

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3冒頭の事実は争う。

被告市長は、参加人よりなされた本件開発行為の許可申請について、都市計画法三三条の許可基準に適合しているかどうかを審査し、その許可基準に適合しているものとして、昭和五〇年三月二四日参加人に対して本件開発許可処分をしたものである。

(一) 同3(一)の事実のうち、本件土地上に建設された白鶴ハイツは分譲集合住宅兼店舗であって、その敷地面積が九〇四四・一七平方米である事実は認めるが、その余の事実は争う。

白鶴ハイツの延面積は一万八八二九・六八平方メートルであって、そのうち住宅部分が一万四九二七・八二平方メートル、店舗部分が二三八六・五八平方メートル、ガレージ部分が一五一五・二八平方メートルで、店舗部分の延面積に対する割合は一二・六七パーセントにすぎないから、白鶴ハイツは都市計画法三三条一項冒頭にいう住宅である。そうすると、本件土地に接する道路の幅員は、同条一項二号及び二項、同法施行令二五条二号、同法施行規則二〇条により、右土地面積のいかんを問わず、六メートルをもって足りるものといわなければならない。そして、白鶴ハイツの敷地に接続して、現在幅員約六・五メートルの道路があり、本件開発行為により、右道路の幅員は最大幅員八・五メートル、最小幅員七メートルとなる。また右道路が阪急電車の軌道と立体交差する地点にあっては、その道路の幅員は、車道部分について五・五メートル、歩道部分について二・三メートルで、合わせて七・八メートルとなる。

したがって、本件開発許可処分には、同法施行規則二〇条の規定に反する違法はない。

(二) 同3(二)の主張事実は争う。

本件土地内には道路がないから、本件開発許可処分に都市計画法施行令二五条四号の規定に反する違法はない。

(三) 同3(三)の主張事実は争う。

都市計画法施行令二五条六号によれば、開発許可の基準として、開発区域の面積が〇・三ヘクタール以上五ヘクタール未満の開発行為にあっては、開発区域に、面積の合計が開発区域の面積の三パーセント以上の公園、緑地又は広場を設けるべきことを規定しているが、本件土地の南西部には、開発区域の面積九七五六・〇七平方メートル(但し、変更許可申請前は九七〇二・〇〇平方メートル)の四・四一パーセントにあたる四三〇・〇〇平方メートルの公園が設計され、その公園と道路面の高低差は四・八五メートルであり、道路から公園へは階段(幅二・〇〇メートル、斜線距離七・〇〇メートル)で通じているほか、北側からスロープ、東側から階段で自由に出入することが可能である。そうすると、本件開発行為には、開発区域の面積の三パーセント以上の公園が適当に配置され、都市計画法三三条一項二号、同法施行令二五条六号で定める基準に適合しているものであって、本件開発許可処分には右各規定に反する違法はない。

(四) 同3(四)の主張事実のうち、本件土地は、その西側に道路を隔てて深田池公園の所在する風致地区に隣接している事実は認めるが、その余の事実は知らない。

本件土地と右風致地区との間には道路があり、しかも右道路は将来二七・〇〇メートルの弓場線を敷設する計画があるから、本件開発行為によって右風致地区に原告ら主張のような被害が生ずる筈がない。

(五) 同3(五)の主張事実は争う。

都市計画法三三条一項一三号に規定する「工事の実施の妨げとなる権利を有する者」とは、土地については、その所有権、永小作権、地上権、賃借権、質権、抵当権、先取特権等を有している者のほか、土地が保全処分の対象となっている場合には、その保全処分をした者をいうのであり、また工作物については、その所有権、賃借権、質権、抵当権、先取特権等を有している者のほか、土地改良施設がある場合には、その管理をしている者をいうのであって、原告らの主張するように、付近住民で、土地、工作物について、日照権や環境権等を有している者をいうのではないから、本件開発行為の許可処分をなすに際し、付近住民の相当数の同意を得る必要はない。本件開発行為の許可処分をなすについて、土地所有者を始め、右開発行為に関する工事の実施の妨げとなる権利を有する者すべての同意を得ているから、右処分には同条同項同号の規定に反する違法はない。

3  同4冒頭の主張事実は争う。

(一)(1) 同4(一)(1)の主張事実のうち、本件土地及びその周辺の区域の一部が第二種地域に指定された事実は認めるが、その余の事実は知らない。

弓場線は、昭和二一年五月六日兵庫県知事によって都市計画決定がなされ、その後の計画変更を経て、昭和四一年一一月七日最終的に起点神戸市東灘区御影町御影字浜中地先、終点同区同町御影字深田となっている。第二種地域の指定は、昭和四八年七月一四日兵庫県知事が都市計画法一八条一項の規定により神戸国際港都建設計画用途地域の決定として行ったものであって、被告主事がその違法であるか否かを審査判断しうるものではない。

なお、建築確認は、その建築計画が現時点において法令の規定に適合しているかどうかを基準として審査判断さるべきものであって、将来の可能性をも予測しこれをも含め斟酌して審査判断さるべきものではないから、白鶴ハイツの建築計画にかかる本件確認処分は、将来弓場線が完成することによって、違法となるものではない。

(2) 同4(一)(2)の主張事実のうち、本件土地が同一人の所有に属する第一種地域の隣接地と一体の利用関係がある事実及び本件土地は、第二種地域の部分がその過半を占めている事実は認めるが、その余の事実は否認する。

本件土地は別紙物件目録記載のとおり東灘区御影町郡家字村田二九三の一の土地八四四四・五一平方メートル、同区住吉町鍋島一八四二の九の土地九七九・一一平方メートルの二筆の土地の一部であり、右二筆の土地は同一人の所有に属し、かつその従前の利用関係は一体としてなされていたが、参加人から、右二筆の土地の一部九〇四四・一七平方メートルを白鶴ハイツの敷地として建築確認の申請がなされた。ところで、右敷地九〇四四・一七平方メートルのうち、第一種地域の占める部分が三七五八・四四平方メートルであり、第二種地域の占める部分が五二八五・七三平方メートルであったため、被告主事は、建築基準法九一条の規定により、過半の属する第二種地域を採用したのである。したがって、被告主事が本件確認処分をなすについて、用途地域を第二種地域としたことに違法はない。

(二) 同4(二)の主張事実は争う。

建築主事が建築確認処分をなすに際して審査すべき対象は、確認申請にかかる建築物の計画であり、審査すべき法令の範囲は、当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に限られるものである。したがって、被告主事が原告らの主張するような実質上の審査をなすべき必要はないものといわなければならない。

(三) 同4(三)の主張事実は争う。

建築基準法九一条が、同条にいう地区から高度地区を除くと規定したのは、建築物の敷地が高度地区にわたる場合にあっては、高度地区に関する建築制限規定の適用につき敷地の過半主義によらないことを定めたものにすぎない。被告主事は、建築制限規定を適用するにあたり、地域については、前記のとおり第一、第二種各地域の占める面積により過半の属する第二種地域にかかる規定を適用し、また高度地区については、同法九一条の過半主義によらず、第一種、第二種各高度地区ごとに、それぞれ別個に当該建築制限規定を適用したものである。

三  参加人の本案前の主張

1  都市計画法に基づく開発許可処分に対する取消の訴は、同法五二条により、当該処分についての審査請求に対する開発審査会の裁決を、また建築基準法に基づく確認処分に対する取消の訴は、同法九六条により、当該処分についての審査請求に対する建築審査会の裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができないものというべきところ、別紙選定者目録記載の選定者らのなかには右各裁決を経ていない者がある。そうすると、このような選定者らにより選定された選定当事者たる原告山田市郎ら四名は本訴を提起する原告適格を欠くものといわなければならない。

2  行訴法九条によれば、行政処分の取消の訴は、当該処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる旨規定されているところ、別紙選定者目録記載の選定者ら(但し、選定者番号43小西敏裕、同44小西信子、同66柴原邦平、同67柴原祐子を除く。)は別紙図面表示の場所に住居を有している者であり、右図面によると、同目録記載の選定者らの中には、本件土地からかなり離れた場所に居住している者がおり、また選定者番号43小西敏裕、同44小西信子、同66柴原邦平、同67柴原祐子は本訴提起後他に転居しているため、本件開発許可処分及び本件確認処分により日照通風等につきなんらの被害も受けていないことが明白である。そうすると、これらの選定者らは、右各処分の取消を求めるにつき、法律上の利益を有しないものというほかはなく、これらの選定者らによって選定された選定当事者たる原告山田市郎ら四名は本訴を提起する原告適格を欠くものといわなければならない。

3  民訴法四七条一項によれば、共同の利益を有する多数者(選定者)は、その中より選定当事者を選定することができる旨規定されているところ、本件においては、選定者らの中には前記のとおり本件開発許可処分及び本件確認処分により、日照通風等につき、なんらの被害も受けない者のあることが明らかである。そうすると、選定者らの間に、選定当事者を選定する要件たる共同の利益を欠く者を含んでいることになり、このような選定者らによって選定された選定当事者たる原告山田市郎ら四名は、本訴を提起する原告適格を有しないものといわなければならない。

四  原告らの、参加人からの前記三の主張に対する認否及び主張

1  参加人の三1の主張について

選定者らのうち、別表一、(一)(二)の「○」印を記載した者は本件開発許可処分について、昭和五〇年四月一二日神戸市開発審査会に審査請求をなし、同年七月一五日同審査会の裁決を受けたので、同年八月一二日右裁決について建設大臣に再審査請求をなし、昭和五一年五月一日同大臣の裁決を受けた。

また、選定者らのうち、別表一、(一)の「○」印を記載した者は、本件確認処分について、昭和五〇年四月一二日神戸市建築審査会に審査請求をなし、同年五月一九日同審査会の裁決を受けたので、同年六月一八日右裁決について建設大臣に再審査請求をなし、昭和五一年四月九日同大臣の裁決を受けた。

そうすると、選定者らのなかに、右各処分に対する裁決を経ていないものがあるとしても、裁決を経た者も含んでいるのであるから、これらの選定者らにより選定された選定当事者たる原告山田市郎ら四名は本訴を提起する適格に欠けるものではない。

2  参加人の三2の主張について

選定者らは、本件各処分の取消を求めるにつき、以下のとおり法律上の利益を有している者である。

(一) 選定者らは本件各処分の名宛人ではないが、白鶴ハイツの建築工事が完成したときには、これにより選定者らは白鶴ハイツの付近住民として日照、通風、プライバシー等を侵害され、かつ強風時の風害、電波障害、車公害、音響等の障害を受け、ひいては健康と快適な生活の維持を内容とする基本的人権の一つである環境権を侵害されることが明らかである。

(二) 原告山田市郎は約五〇年、同曾根香代は約四〇年、同加藤洸子は約二二年、同内田厚也は約一二年の長期間にわたって本件土地の周辺地域に居住し、その間日照等について良好な環境を享受してきたものであるが、白鶴ハイツの建築工事が完成した場合には、右原告ら四名を含む選定者らはすべて以下のような被害を受けることになる。

(1)(イ) 風害について

白鶴ハイツの建築工事が予定されるや、選定者らは昭和五〇年ころ京都大学助教授成仁煥らの出席のもとにその建築物について風洞実験を施行したが、右実験の結果をもってしても、白鶴ハイツの建築により、選定者らの受ける風害の程度は不明ということであった。しかし、右建築によって白鶴ハイツの周辺では強風、突風、乱気流、竜巻等が発生し、特に白鶴ハイツの両端部ではその建築物の高さ五〇メートルの約一・五倍にあたる約八〇メートルの範囲にわたって、より激しい強風が吹き、その風害の程度が加重されることは建築学上の常識であり、また台風時に異常な風の吹溜りや逆風現象が発生することも流体工学上明らかなところである。

(ロ) 電波障害について

白鶴ハイツの建設工事に際し、巨大なクレーンが使用されたため、その作動によって、選定者ら付近住民は、テレビの受信不良に悩まされ、かつ難視聴の状態に陥った。白鶴ハイツ完成後の電波障害についての対策としては、弓弦羽神社付近に高さ一〇メートルの共同アンテナを作り、そこから各戸に有線の引込装置を設置する必要があるが、右装置の設置及び維持管理等に要する費用は、選定者ら付近住民においてこれを負担しなければならない。

電波障害は、陰障害と反射障害とに区別される。陰障害とは、放送塔より発信される希望波(直進波)が白鶴ハイツのため遮断されて直接家庭内のテレビに到達しないことにより生ずる障害をいうが、本件土地は強電界地域に属するので回折波が強く、近畿電波障害防止協議会等の意見によれば、白鶴ハイツより西方へその高さ五〇メートルの二〇ないし二五倍に相当する一〇〇〇ないし一二五〇メートルの範囲内の土地が陰障害を被ることになる。また反射障害を受ける地域は事実上建物の材料、土地の高低等により差異があるがVHF(生駒山より発信)については本件土地より東方へ二六〇〇メートル以内、UHF(摩耶山より発信)については本件土地より西方へ三八〇メートル以内という広範囲に及ぶものである。

(ハ) 日照阻害について

白鶴ハイツは地上一四階(四〇・六〇メートル)、塔屋二階(九・六五メートル)、幅七〇メートル、延面積一万八八二九・六八平方メートルに及ぶ巨大な建物であり、そのため冬至において、選定者らのなかには別表二の(一)記載のとおり最長三三三メートルに及ぶ日影を受ける者もある。また本件土地の近辺にある深田池は、風致地区内にありながら、冬期において午前中日影を受けるため、樹木の成育が妨げられることになる。

(ニ)(1) 眺望阻害について

白鶴ハイツの建設により被害を受ける選定者らの付近住宅地のほぼ中心をO点とし、O点と、白鶴ハイツの東西両側端のP、Qの各点をそれぞれ結ぶOP線、OQ線により狭まれたPOQ角を(シーター)角度とする。人間の視野を一八〇度とすれば、眺望阻害率は(シーター)角度を一八〇度で除した率となるところ、選定者らの眺望阻害率は別表三記載のとおり一一・一ないし三八・三パーセントとなり極めて高度なものとなる。

(2) 天空阻害について

白鶴ハイツの頂点をP点、これより地上に垂線を下して地上に接する点をM点、被害を受ける選定者ら住民の住宅敷地のほぼ中心点をO点としてPOM角(仰角)を求めると、天望を阻害される範囲が明らかとなるので、この仰角の天空(半天)(九〇度)に対する率を天望阻害率とする。天望阻害率は一指向の方向についてみたものであるから、その率に前記眺望阻害率を乗ずると別表三記載のとおり天空阻害率を算出することができ、選定者ら付近住民は右のような率で天空阻害の被害を受けている。

(三) 選定者ら付近住民のうち、被害が最も大きい選定者番号1山田市郎ら一三人の被害を具体的かつ個別的に明示すると、別表二の(一)ないし(三)記載のとおりである。

五  参加人の、原告らからの四の主張に対する認否もしくは反論

1  原告らの四1の主張事実のうち、別表一、(一)(二)の「○」印を記載した選定者らが本件各処分につき原告ら主張のように審査請求もしくは再審査請求をなし各裁決を経由した事実は認める。

2(一)  原告ら主張の風害について

白鶴ハイツの周辺においては、原告ら主張のように強風突風、乱気流、竜巻等が発生する虞れはない。

参加人は、白鶴ハイツの設計に先立ち、白鶴ハイツの建築によって受けるその周辺の風の影響について、京都大学教授石崎雄、同大学助教授成仁煥に鑑定を依頼したが、その鑑定結果によると、風が増強するのは白鶴ハイツのごく周辺の本件土地内の部分のみであり、白鶴ハイツの周囲一三五メートルの部分では白鶴ハイツの建築によって、むしろ風が弱くなり、また本件土地の北東部分及びこれに隣接する白鶴酒造の所有地内では、風向により、白鶴ハイツが建設されるか否かにかかわりなく比較的強い風が吹くというのである。

(二) 原告ら主張の電波障害について

参加人は、白鶴ハイツの建設工事により発生する可能性のある電波障害に対処するため、本件土地の北端と、弓弦羽神社境内の北西隅に共同アンテナを設置し、その共同アンテナから、電波障害が発生し或いは発生の予想される各戸に電波を分配しているほか、電波障害の発生があれば直ちに各戸に配線をつなぎ、電波分配をなしうるような準備を完了しているのである。

なお、白鶴ハイツの完成後に予測される電波障害に備えて、(イ)、白鶴ハイツの東側及び西側については、本件土地の北端に設置した仮設共同アンテナから、白鶴ハイツの屋上に設置する共同アンテナに切換えて、既に施工ずみの配線により各戸に電波を分配し、(ロ)、白鶴ハイツの南側部分については、白鶴ハイツの屋上に設置する共同アンテナから配線することは阪急電車の軌道敷との関係で法規上許されないため、弓弦羽神社境内に設置した共同アンテナを永久的に存続させて南側部分の各戸に電波を分配することにしている。しかも共同アンテナの維持管理及びこれに要する費用は、参加人と選定者ら住民との間で、参加人においてこれを負担することを約定している。

したがって、白鶴ハイツの建築工事中はもとより、その工事完成後も電波障害の発生するおそれは些かも存在しないのである。

(三) 原告ら主張の日照阻害について

原告ら主張の日照阻害に関する事実のうち、原告山田市郎、選定者番号2山田市雄、原告内田厚也、選定者番号45児島安之、同56松栄薫の五名がその各住居について日照阻害を受けている事実は認めるが、その余の事実は知らない。

右原告及び選定者ら五名の日照阻害の程度はいずれも二二時間以内で受忍限度の範囲内のものであるから、原告ら主張のように生活環境を破壊するものということはできない。

また原告らは、冬期において深田池が午前中日影を受けるため樹木の成育が妨げられる旨主張するが、太陽の移動に伴い、日影部分も急速に移動縮小していくので、午前一一時には日影部分は極めて狭小なものとなり、午前一一時三〇分以降は完全に日照が確保される。したがって、松、桜等の樹木の成育が原告ら主張のように妨げられる筈がない。

(四) 眺望阻害について

選定者らに眺望阻害の被害が生じたとしても、それは受忍限度内のものであるにすぎない。

原告ら主張の眺望阻害率の計算方式が果して妥当であるかどうかは甚だ疑問である。即ち砂漠のように平面で、かつ計測すべき対象物以外に視野を遮ぎるもののない場所であれば、対象物の両端と視点とを結ぶ角度を一八〇度で除することも合理的であろう。しかし原告曽根香代方のように、その北側の狭い道路を隔てて白鶴酒造の社宅が建並び、それだけ眺望が阻害されている場合には、何らの遮蔽物がない場合とは異なり、前記計算方式を採用することはできない、白鶴ハイツの建築により従前と比べて、原告ら及び選定者らの眺望が阻害されるとしても、その程度は、第一種、第二種各地域で、その敷地一杯に建築される場合と比較して、それほど眺望を阻害しないことが明らかであるから、右眺望阻害は受忍限度の範囲内にとどまるものといわなければならない。

(五) 天空阻害について

原告らは、白鶴ハイツの建設により、天空阻害が生じると主張し、天空阻害率を算出している。

しかし、原告ら主張の眺望阻害率の算式方法そのものが前記のとおり疑問であるが、右眺望阻害率に天望阻害率を乗じた天空阻害率をもってしても、最も高い数値は原告曽根香代方の〇・一九パーセントにすぎない。原告らの主張する天空阻害率は、白鶴ハイツ以外の、原告ら及び選定者ら方と近距離にある遮蔽物による阻害をも、白鶴ハイツの建設による阻害であるとして計上した不合理があり、したがって、白鶴ハイツによる実際の阻害率は原告ら主張の数値より相当低下する筈のものであって、このことは原告曽根香代方において顕著なところである。

以上の事実を考慮にいれるならば、白鶴ハイツの建築による天空阻害は日常生活に甚しい影響を及ぼす程度までには至らず、原告ら及び選定者らの受忍限度の範囲内にとどまるものといえるのである。

(六) プライバシーの侵害について

原告らはプライバシー侵害の被害を受けた旨主張するが、右主張事実は否認する。

プライバシーの侵害とは、家屋の窓等開口部よりその室内が望見され、私生活の平穏が害される場合をいうのである。

参加人は、万一にも選定者らの周辺住民にプライバシーの侵害が発生することを懸念して、白鶴ハイツの北側には開放廊下を設けず、また南側には不透明なガラスをはめこんだコンクリート腰壁のあるベランダを設けて、選定者らの居室内の見下ろしができないように配慮している。

白鶴ハイツから、原告加藤洸子方までは約一〇五メートル、原告曽根香代方および選定者番号45児島安之方まではいずれも約五〇メートルの距離を有するのである。

白鶴ハイツから約一〇〇メートル離れた原告加藤洸子方にあっては、家屋の形状が他と判別されるだけで、同原告方の窓を通して屋内を見透すことなどは不可能であり、プライバシーの侵害は生じ得ない。

原告曽根香代方選定者番号45児島安之方はいずれも白鶴ハイツから約五〇メートルの距離があり、また、日中は、屋外の明るさと、屋内のそれとには格段の差があるため、光の干渉作用によって、同人ら方の窓は見えても、その屋内の事物・行動は識別しえない。さらに夜間においても、通常の屋内照明をもってしては、その明るさから考え、約五〇メートルも離れた白鶴ハイツから同屋内の事物・行動を識別することはできない。

原告らは、右原告曽根及び選定者児島方は窓から覗かれ、私生活の平穏ひいてはプライバシーが侵害されるというのであるが、より近接した隣家からの見透しさえ相隣関係の故をもって受忍せざるを得ないのに、白鶴ハイツのように五〇ないし一〇〇メートルも離れ、右原告ら方の屋内の事物・行動を識別できない以上、原告らにおいてプライバシーの侵害を主張することはできない。

(七) 通風阻害について

原告らは、原告山田市郎、同加藤洸子、同内田厚也らについては、快適な南風が阻害されるとともに北風の吹返しがある旨、原告曽根香代及びその周辺の選定者らについては、南風が同人ら方にあたって、それがまた反転して吹きつける旨それぞれ主張しているが、右主張事実は否認する。

原告ら主張のような通風阻害の現象は全くなく、また原告ら主張の風の吹返しは、白鶴ハイツのごく近接した敷地内の一部分で渦流となって発生するにすぎないものであり、遠く離れた原告及び選定者らの住居部分で発生する筈がない。

(八) 雨水の溢水について

原告らは、雨水の溢水によって被害を受け、殊にバス道はその通行が困難となる旨主張するが、右主張事実は否認する。

もともと白鶴ハイツの敷地内の降雨量は、白鶴ハイツの建物の存否とは関係がなく、さらに溢水するかどうかは建物の高層化に伴うものではないから、白鶴ハイツの建設とはなんらのかかわりがないものである。

(九) 大気汚染並びに交通公害について

原告らは、白鶴ハイツの居住者並びにその店舗に出入する自動車の排気ガスの増大、大型焼却炉の排気ガスにより、付近一帯が汚染され、さらに隣接道路がすでに交通渋滞地域であるため、交通公害が発生する旨主張しているが、右主張事実は否認する。

白鶴ハイツは阪急御影駅より至便の地にあるため、白鶴ハイツの居住者の大部分はマイカーの通勤を避けて阪急電車を利用するものと予測される。

また従前と比較して、一日せいぜい数十台の通行車両が増大したとしても、これによって、受忍すべき限度を超えるような大気汚染や交通公害が発生するものということはできない。

なお、参加人は白鶴ハイツの敷地内に大型はもとより小型のものについても焼却炉を設置することを予定していない。

(一〇) 騒音について

原告らは、人と車の増加により音の絶対量が増大する旨主張しているが、右主張事実は否認する。

参加人は、白鶴ハイツの建ぺい率を二三・〇三パーセントにおさえ、その敷地の約七七パーセントを空間として残し、樹林地帯を設け庭園を配しているのである。仮に原告ら主張のごとく白鶴ハイツからいくらかの生活騒音が発生したとしても、原告及び選定者らのうち白鶴ハイツから最も近い距離にある者でさえ五〇メートルもの距離があり、音波が発生源からの距離の二乗に反比例して減衰するものであることを考えれば、入居者によって騒音が増大する可能性はあり得ないものである。

店舗部分の出入りの車両による騒音の発生も、前記のような通行車両数及び低速運行しかなし得ない道路の状況からみて、騒音量を増大するほどにはなり得ない。

したがって、原告ら主張のように騒音の増大により受忍限度を超えるような被害の発生は絶対にあり得ないものである。

(一一) 落下物の危険について

原告らは、落下物の危険、特に地震、台風時等におけるガラス破片等の落下の危険を主張するが、右主張事実は否認する。

白鶴ハイツは前記のとおり建ぺい率二三・〇三パーセントにすぎず、その敷地の約七七パーセントは空地であり、白鶴ハイツとその敷地の境界までの距離はいずれの方位においても約一五メートル以上もあり、原告及び選定者らのうち白鶴ハイツに最も近接している者でも約五〇メートルの距離を有する。

白鶴ハイツの入居者が誤って物を落下させることがあったとしても、白鶴ハイツの敷地内に落下するだけで、五〇メートルも離れた選定者や原告ら方に落下することはあり得ない。

また白鶴ハイツのガラス窓サッシは耐風圧様式であるから、原告ら主張のように地震、台風時等においてガラス破片等が落下する危険はなく、仮に地震時によってガラスが破壊された場合でも、その破片等はすべて白鶴ハイツの敷地内に落下する筈である。

(一二) 気温の変化について

原告らは、原告山田市郎、同加藤洸子、同内田厚也ら方について、北風の吹返しと日照阻害とによる室温低下の被害の発生を、原告曽根香代ら方について、夏期の照返しが厳しいところ、室内を覗かれるので、その窓を開放しえないことによる気温変化の被害の発生をそれぞれ主張しているが、右主張事実は否認する。

原告加藤洸子ら方は、白鶴ハイツより一〇〇メートルも離れているから、白鶴ハイツの建築による風向の変化は僅少なものであって、北風の吹返し等の現象は起り得ないし、また同原告方の日影はその庭先で短時間生ずるにすぎないから、北風の吹返しと日照阻害とによる室温低下は発生しえない。

原告曽根香代ら方は白鶴ハイツより五〇メートル以上も離れ、その間に樹木、白鶴社宅等が存在するから、仮に夏期の照返しがいくらかあったとしても、それがそのまま同原告ら方に伝導する筈がなく、また同原告ら方は前記(六)のとおりその室内を見すかされる可能性がない以上、原告ら主張のように室内を覗かれるおそれがあることを理由に、その窓を開放しえないというのは全くの杞憂である。

(一三) 圧迫感について

原告らは、白鶴ハイツの建築によって受ける圧迫感が著大であると主張しているが、右主張事実は否認する。

参加人は、白鶴ハイツの建築に際し、その敷地内に可能な限り樹木を残して庭園を配し、周辺との調和を考慮して敷地の緑樹化、庭園化を図っているから、白鶴ハイツは、それ自体の色調、配置と相まって周辺の緑と調和し落着いたものになっているから、原告ら主張のように圧迫感を生ずる筈がない。

第三証拠《省略》

理由

一  本件訴状の記載自体及び《証拠省略》を総合すると、別紙目録記載の選定者ら(但し、選定者番号43小西敏裕、同44小西信子、同66柴原邦平、同67柴原祐子を除く。)は、白鶴ハイツの周辺で、別紙図面表示の場所に居住しているものであるが、その住居は、白鶴ハイツから近い者では約五〇メートル、遠い者では数百メートルそれぞれ離れていること、参加人は、白鶴ハイツを建設するため、被告市長より都市計画法二九条に基づく本件開発許可処分を、被告主事より建築基準法六条に基づく本件確認処分をそれぞれ受けたところ、同目録記載の選定者らは原告山田市郎ら四名を選定当事者として右各処分につき、同一の違法事由を請求原因として、右各処分の取消を求める本訴を提起したことが明らかである。

二1  都市計画法五二条、五〇条一項によれば、同法二九条に基づく開発行為の許可処分に対する取消の訴は、当該処分についての審査請求に対する開発審査会の裁決を経た後でなければ、提起することができない旨、建築基準法九六条、九四条一項によれば、同法六条に基づく建築確認処分に対する取消の訴は、当該処分についての審査請求に対する建築審査会の裁決を経た後でなければ、提起することができない旨それぞれ規定されているところ、《証拠省略》によると、別表一記載のとおり、選定者番号2山田市雄、同4加藤千代、同6内田愛子、同12上田しなえ、同14前橋螢一、同15前橋春子、同16南方和子、同18小林ゆり、同19堀恵美、同20堀幸一郎、同21堀千恵子、同24松井正行、同26川西龍弥、同27川西幸子、同28芝謙三、同29芝豊、同31引筑紫操、同32山田市次、同33表すまこ、同34西松春二、同35福田孝次郎、同36高島荘治郎、同37河田春世、同40二宮牧子、同41二宮良徳、同43小西敏裕、同44小西信子、同46児島千代江、同47児島幸子、同49児島祐子、同51川幡英子、同53遠藤泰子、同55山本秋子、同57松栄まこと、同60鈴木邦彦、同61鈴木はつ子、同65山田米子、同68敦賀初彦、同69西川久枝、同70西川清水、同71西川玲子、同72林敏欲、同73林晴美、同74山田直樹、同75村上由貴子は、本件各処分について(但し選定者番号75村上由貴子は本件開発許可処分を除いた本件確認処分についてのみ)、神戸市開発審査会若しくは同市建築審査会に審査請求をして同各会の裁決を経ていないことが明らかである。

2  ところで、都市計画法五二条、建築基準法九六条が、訴訟の提起前に開発審査会若しくは建築審査会の裁決を経ることを要する旨定めた法意は、右各条に定める行政処分がいずれも専門的、技術的事項に関する判断を要するものであることに鑑み、右各行政処分の当否について、開発審査会若しくは建築審査会をして更に行政上の見地から再検討をなさしめる機会を与えたところにあるものといわなければならない。

3  しかし、《証拠省略》によると、原告山田市郎、同加藤洸子、同内田厚也、選定者番号7内田玲子、原告曽根香代、選定者番号9藤村よね、同10夏原芳郎、同11大原かつ、同13前橋宇三郎、同15前橋春子、同16南方和子、同17南方哲也、同19堀恵美、同22小泉邦子、同23平井愛子、同25松井芳子、同30筑紫敬五、同34西松春二、同35福田孝次郎、同38金沢宏、同39二宮道和、同42二宮睦子、同45児島安之、同48児島敏夫、同50川幡泰、同52遠藤啓三、同54山本新作、同56松栄薫、同58長谷川亘利、同59長谷川道子、同62井原正幸、同63井原順子、同64山田保、同65山田米子、同66柴原邦平、同67柴原祐子、同75村上由貴子は、(イ)、本件開発許可処分につき、昭和五〇年四月一二日神戸市開発審査会に対して審査請求をなし、同年七月一五日同会より右審査請求を棄却する旨の裁決を受けるや、同年八月一二日建設大臣に対して再審査請求をなし、昭和五一年五月一日建設大臣より再審査請求を棄却する旨の裁決を受けるや、同年七月二六日当裁判所に原告山田市郎ら四名を選定当事者として本件開発許可処分の取消を求める本訴を提起し、(ロ)、本件確認処分につき、昭和五〇年四月一二日神戸市建築審査会に対して審査請求をなし、同年五月一九日同会より右審査請求を棄却する旨の裁決を受けるや、同年六月一八日建設大臣に対して再審査請求をなし、昭和五一年四月九日建設大臣より右再審査請求を棄却する旨の裁決を受けるや、同年七月二六日当裁判所に原告山田市郎ら四名を選定当事者として本件開発許可処分とともに本件確認処分の取消を求める本訴を提起したこと(但し、選定者番号15前橋春子、同16南方和子、同19堀恵美、同34西松春二、同35福田孝次郎、同65山田米子は、本件各処分につき、審査請求をしないで、再審査請求のみをしたものであり、選定者番号75村上由貴子は本件開発許可処分については審査請求及び再審査請求をなし、本件確認処分については審査請求をしないで再審査請求をしたものであること)、右のとおり、原告山田市郎らは神戸市開発審査会、同市建築審査会、建設大臣の各裁決を経たうえ、前記1まで認定掲記の選定者番号2山田市雄らとともに原告山田市郎ら四名を選定当事者として前記一認定のとおり同一の請求原因で本件各処分の取消を求める本訴を提起したことが認められるから、選定者番号2山田市雄らは、右各裁決を経ていないとしても、さきに説示した都市計画法五二条、建築基準法九六条の法意に鑑み、原告山田市郎らとともに原告山田市郎ら四名を選定当事者として適法に本訴を提起しうるものであり、したがって選定者番号2山田市雄らが右各裁決を経ていないとしても、同選定者らを含む別紙選定者目録記載の選定者らから選定された原告山田市郎ら四名の原告適格に欠けるところがあるものということはできない。

三1  行訴法九条によれば、行政処分の取消の訴は当該行政処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができる旨規定されているところ、ここにいう法律上の利益を有する者とは、法律上保護された利益を有する者を指称するのであって、本件においては、本件開発許可処分及び本件確認処分の根拠法令である都市計画法、建築基準法が、原告ら周辺住民に対して原告ら主張のような生活環境上の利益を、一般的抽象的にではなく、個別的かつ具体的に保護することを目的としている場合に限られるものと解するのが相当である。

2  そこで、本件開発許可処分の根拠法令である都市計画法二九条等が、原告ら周辺住民において主張する日照、眺望等の生活環境上の利益を保護しこれを侵害しないことを目的としているかどうかについて検討する。

開発許可の申請手続は都市計画法三〇条に、開発許可の基準は同法三三条にそれぞれ規定されているところ、同法三〇条の規定をみても、開発許可の申請書に、開発区域の周辺に居住する住民の日照、眺望等の生活環境上の利益を個別的かつ具体的に保護するための配慮事項を記載すべき旨命じていないから、都道府県知事が右申請書に基づいて同法三三条により開発許可をなすべきか否かを審査判断するにあたり、原告ら主張のような前記利益を審査判断するを要しないものといわなければならない。

もっとも同条一項八号及び同項九号によれば、開発区域の周辺の地域における環境を保全するため必要な措置を講ずるなどして設計すべきことが定められているが、これは、健康で文化的な都市生活等を確保すべきことを基本理念(同法二条)となし周辺の地域における環境という公共の福祉の増進に寄与(同法一条)することを目的として定められたものであって、同法三三条一項八号及び同項九号の規定により、付近住民の利益を個別的かつ具体的に保護したものと解することはできない。

右のとおり、都市計画法には、原告ら主張のような利益すなわち白鶴ハイツの周辺地域で日照、眺望等を享受してこれを侵害されないという生活環境上の利益を保護した規定は見あたらない。

3(一)  次に建築基準法の諸規定のうち、都市計画区域内の建築物の高さに関する諸規定(同法第三章第四節中の諸規定)は、主として都市計画の観点からその区域内の建築秩序を維持して都市環境を整備保全し、これを向上するという公共の福祉増進の目的を有していることは否みえないところであるが、右の諸規定のうち同法五六条の二の規定は、右目的とともに、住民が都市計画区域内において快適で健康な生活をなしうるよう、これに必要な日照を最低限度確保してその利益を保護し、右利益に対する侵害防止を図る目的をも有していることは、その規定自体に徴して明らかである。

建築基準法五六条の二の規定は建築物の高さを規制することによってその周辺住民の日照を個別的かつ具体的に保護したものであって、それは、建築基準法が公共の福祉増進を目的として行政権の行使に制約を課している結果、一定の者が受けることとなる単なる事実上の反射的利益とは区別さるべきものである。

しかし、建築基準法中、原告ら主張のような生活環境上の利益のうち、日照を除くその余の利益については、これを個別的かつ具体的に保護した規定を見出しがたい。

(二)  そこで、本件において、白鶴ハイツの建設による日照阻害の有無及びその程度についてみるのに、《証拠省略》によれば、原告内田厚也、選定者番号6内田愛子、同7内田玲子が居住する建物(以下「(イ)の建物」という。)、原告山田市郎、選定者番号2山田市雄、同32山田市次の居住する建物(以下「(ロ)の建物」という。)、原告加藤洸子、選定者番号4加藤千代の居住する建物(以下「(ハ)の建物」という。)はいずれも白鶴ハイツの建設によって日照を阻害されるが、その程度は、冬至日の真太陽時における午前八時から午後四時までの間において、日影時間は、(イ)の建物については一時間に、(ロ)(ハ)の各建物についてはいずれも二時間にそれぞれ満たないこと、右原告及び選定者らを除くその余の原告及び選定者らの居住する各建物は白鶴ハイツの建設によってなんらの日照阻害を受けないことが認められる。

右認定の事実によると、原告及び選定者らの居住する各建物のうち(イ)、(ロ)、(ハ)の各建物についてのみ日照阻害を受けるが、その程度も、建築基準法五六条の二で定める日影時間を超えるものではなく、同条で許容された限度内のものであることが明らかであるから、この程度の日照阻害をもって行訴法九条にいう法律上の利益にあたるものとなすに足りない。

4  以上のとおり、別紙選定者目録記載の選定者らはいずれも本件開発許可処分及び本件確認処分の各取消を求める法律上の利益を有しているものとは認めがたく、したがって選定者らが自ら右各取消を求める訴訟を提起する利益がないのはもちろん、原告山田市郎ら四名を選定当事者として本訴を提起するについてもその利益がなく、結局原告山田市郎ら四名は原告適格を欠くものといわなければならない。

四  また《証拠省略》によると、(イ)、参加人は昭和五三年一一月一八日本件開発工事を完了し、同月二一日被告市長に対してその旨届出をしたこと、被告市長は、右届出に基づいて同年一二月九日本件開発工事の検査を実施し、本件開発工事を都市計画法二九条の規定による開発許可の内容に適合しているものと認め、同日参加人に対しその旨を証明する検査済証を交付したこと、(ロ)、参加人は昭和五三年一一月二七日白鶴ハイツの建築工事を完了し、同日被告主事に対しその旨届出をしたこと、被告主事は、右届出に基づいて同年一二月一日神戸市技術吏員田中歳彦をして建築基準法七条二項の規定による検査を実施させた結果、白鶴ハイツは、その敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例又は建築基準法八八条に掲げる条項並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合していることを認め、同月五日参加人に対しその旨を証明する検査済証を交付したことがそれぞれ認められる。

ところで、開発許可処分(又は建築確認処分)の取消を求める訴訟の係属中に、当該開発区域の開発工事が完了した場合(又は建築物の建築工事が完成した場合)、その後右訴訟の判決により、開発許可処分(又は建築確認処分)は違法であって取消さるべきことが確定したとしても、既に開発区域の開発工事が完了(又は建築物の建築工事が完成)している以上、開発許可前の開発工事(又は建築確認前の建築工事)を禁止する都市計画法二九条の規定(又は建築基準法六条一項、五項の規定)の適用を受ける余地はなく、また都市計画法八一条一項(又は建築基準法九条一項)に定める開発工事(又は建築工事)の停止を命ずる余地もないから、開発工事が完了(又は建築工事が完成)したことにより、開発許可処分(又は建築確認処分)の取消を求める訴の利益は失われるにいたったものと解するのが相当である。

もっとも、開発許可処分(又は建築確認処分)が開発工事の完了(又は建築工事の完成)後に、判決により、違法であって取消さるべきことが確定した場合には、特定行政庁は、法令の定める諸規定に違反する建築物として、都市計画法八一条一項(又は建築基準法九条一項)により、当該建築物等の改築、移転、除却その他右違反を是正するため必要な措置をとるべきことを違反者に命じうる旨定められているが、特定行政庁が、右是正命令を発するか否か、またどのような種類内容の是正命令を発するかについては、専らその行政庁の裁量に委ねられているのであって、第三者がその行政庁に対し右是正措置をとるべきことを求める権利があるものということはできない。そうすると、開発許可処分(又は建築確認処分)が判決により違法であって取消さるべきことが確定した場合、特定行政庁において諸規定違反の是正措置を命ずる蓋然性があることをもって、第三者である別紙選定者目録記載の選定者らが開発工事完了後(又は建築工事完成後)においてもなお本件開発許可処分(又は建築確認処分)の取消を訴求するにつき法律上の利益があるものということはできない。

五  よって、原告山田市郎ら四名の本件訴はいずれも原告適格を欠く不適法なものとして却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西内辰樹 裁判官 田中俊夫 同 法常格は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 西内辰樹)

〈以下省略〉

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